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来たれ旅人!熊野街道、近野の「おもてなし」(和歌山県田辺市)

1.熊野詣の通り道、近野地域

田辺市中辺路町近野地域

 今回ご紹介する近野地域(近露地区とその隣にある野中地区の総称)は、和歌山県のほぼ中央部に位置する田辺市にあり、人口はおよそ600人と規模の小さな地域です。地域内を通る熊野古道の中辺路街道は、かつては「蟻の熊野詣」といわれるほど多くの参拝者が往来していったと伝えられており、近野はこれまで宿場としてたくさんの旅人を迎え入れてきました。そして、今も世界遺産熊野古道と日本の山里の原風景を有する土地として多くの旅人に親しまれています。しかし近年、人口減少や高齢化により、地域の活力は失われつつありました。そんな中、平成23年、台風12号が紀伊半島を襲い、近野も大水害に見舞われ、道路は寸断、地域経済は打撃を受け、地域の元気はさらに失われてしまったのです。

2.近野に再び元気を!

 そんな状況の中、地域の元気を取り戻そうと立ち上がったのが、Uターンでこの地に戻ってきた中峯幸美さんをはじめとする地元の若者や移住者の若者たちでした。平成23年12月にフリーマーケット「元気まつり」を開催し、多くの人が訪れ、活気をもたらしました。このイベントをきっかけに、構成員の高齢化により活動の幅がなかなか広げられないでいた地元住民による地域おこし団体、ちかの平安の郷推進協議会と、生まれ育った場所を元気にしたい、Iターン者が孤立しないよう地元住民との懸け橋になりたいとする中峯さんらの思いが合致し、若者と高齢者が共に活動することとなりました。そして平成25年、古民家を改装した観光交流館「かめや」のオープンを機に、同施設を中心とした地域活性化の取組みがスタートしたのでした。

かめや概要

かめや外観

3.様々な取組み

 中峯さんらが協議会に加わる以前には、地域活性化への取組みとして、桜の植樹による美しい景観づくりや小規模なお祭りを開催する等、地道な活動を行っていましたが、地域の活力はなかなか戻りませんでした。しかし、「かめや」のオープンを機に中峯さんらが加わったことで、若者の新しい視点も加わり、活動はより充実していきました。かめやでのカフェの運営、シェフを招いてのジビエ料理教室の開催や、ポップなイラストを用いたパンフレットの作成等、中峯さんをはじめとする若い女性の目線も取り入れられた効果もあり、近野をあまり知らない観光客や移住者がすぐ近野に親しめるようになっていきました。

猪肉コロッケ、鹿肉コロッケ

かめやカフェ概要

近野小学校

 また、今年10周年を迎える「近野まるかじり体験」という、年に一度の地域のお祭りの運営も行っています。昔のおもちゃ作りや蕎麦ひきといった田舎体験教室では地元住民が講師を務め、近野小学校の児童たちによるジュニア語り部が中辺路街道を案内してくれます。小学生からお年寄りまで地域住民が一丸となって近野に来る人々をもてなし魅力を発信する、まさに近野を「まるかじり」できる一大イベントとなっており、参加者も年々増加し、今では地域内外から1000人以上が集まります。
 さらに、地域の高齢化に歯止めをかけるべく、空き家の活用やシェアハウスの提案など、定住受入れの活動を積極的に行っています。若者が気軽に相談できるよう中峯さんが窓口となり、移住希望者と地域をつないでいます。そうした取組みの効果もあり、今では年間1組から2組の移住者を迎え、最近では海外からも1組の家族が近野に移住してきました。「近野の魅力は新しく近野にきた人を迎えるひとびとの温かさと、充実した子育て環境」と中峯さんは言います。この土地に根付く、熊野詣の旅人を迎える文化から来るのでしょう、新しく近野にやってきた者に対する住民の温かさは、イベント参加への声掛けや、子育ての助け合い等、移住後の細やかなサポートなどにつながっています。また、子育て環境として魅力的なのが近野小学校で、木造のレトロな校舎と美しい広大な芝生は、「子供をここに通わせたい」と親ならば誰もが思ってしまうほど。近野小学校をPRした定住促進活動等がうわさを呼び、今では保育所から中学校まで、生徒のおよそ8割は移住者の子供たちとなっています。

4.これからの近野

 “平安の頃より栄え、熊野三山を詣でる人々をむかえ続けていた近野の魅力を再発見し、発信・伝承し、また、かめやを拠点に、近野に生まれ育った者、転入者(Iターン)が協力し、地域活性化を図る”ちかの平安の郷推進協議会は、この基本方針で活動を行っています。さきほどご紹介しました「近野まるかじり体験」は、この基本方針を象徴するイベントと言えるでしょう。若者から高齢者まで、地元住民も新たに近野にやってきた移住者も、一丸となることが近野の地域活性化の活動の在り方です。
 しかし、一方で課題は山積しています。協議会の久保会長は、「住民全体で地域を盛り上げていきたいが、高齢化により身体がついていかないこと等から、顔を合わせての会議が難しく、意見がまとまりにくい。」と言います。地域に長く住み、地域を良く知る者の高齢化は、近野の伝統や文化といった地域の魅力の継承に大きな障害となっているのです。また、中峯さんは、「協議会の中心で活動してくれる若い力がもっと必要」と言います。移住者に寄り添うためにも、近野の魅力を再発見するためにも、この土地に移住してきた者の視点やアイディアが不可欠ですが、協議会に移住者のメンバーがまだまだ少ないのが現状です。さらに、かめやの運営費用ねん出等、協議会として活動する上での資金も確保していかなければなりません。
 協議会は、これらの問題を克服し、住民同士の懸け橋となり、イベントの内容を充実させる等、今後も積極的に住民が一丸となった活動を展開していくことで、熊野詣の旅人達を迎えてきた文化を守っていきたいとしています。

5.さいごに

 近野地域の魅力は上記でご紹介したものだけにとどまりません。住民により守り伝えられてきた、熊野古道の通り道、近野の美しい景観と人々の温かさで多くの旅人を癒してきた歴史や文化は、課題を克服していくことで、地域住民と移住者の融合によりさらなる輝きを見せ、私たちをもてなしてくれることでしょう。みなさんも、一度近野に足を運んでみてはいかがでしょうか。

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