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小規模集落における農業と地域の活性化について(和歌山県田辺市)

1.和歌山県の観光名所「紀南三梅林」

 和歌山県の農業の特徴は、農業産出額に占める「果実」の割合が非常に高いという点が挙げられます。代表的な特産品である「みかん」は全国一位となっています。みかんに次いで農業産出額が多い果実が「うめ」であり、こちらも全国一位で、国内の6割以上を占めています。
 毎年2月下旬から3月上旬にかけて見ごろを迎える梅林では、一面に広がる小さな白い花と甘い香りが見る者を惹きつけ、和歌山県の魅力的な観光資源のひとつとなっています。特にみなべ町の「南部梅林」と「岩代大梅林」、田辺市の「紀州石神田辺梅林」は、県内での規模も大きくその景観の素晴らしさから、毎年多くの観光客で賑わっています。

2.上芳養石神地区の「紀州石神田辺梅林」

 田辺市にある「紀州石神田辺梅林」は、その周囲を「大蛇峰」と呼ばれる山地に囲まれた山間部に、13世帯が集まる「上芳養石神地区」という小規模集落にあります。
 この石神地区の梅栽培は江戸時代に始まり、明治時代に本格化されました。初春に広がる梅林の美しい景色は、「地元の人には当たり前の景色でも、ほかの地域の人が見ればきっと感動してもらえるはず。」との思いから、昭和38年に「石神梅林」として観梅が始まりました。今では毎年約7,000人の観光客が訪れるほどの観光名所となっています。

 弁慶くんの像

紀州石神田辺梅林の様子

3.梅栽培における「パイロットファーム」の取り組み

パイロットファームの様子

 石神地区は、梅栽培に適した場所ではあったものの、急斜面の山肌での作業が中心であったため、多大な時間と労力を必要としていました。また、小規模集落で農業の担い手も少なく、高齢化も進む現状の中で、将来に石神のうめやふるさとを残していきたいとの思いもあり、国・県・市の補助を受け、地元の梅農家が中心となって、平成7年から約10年をかけてパイロットファーム事業を実施しました。
 当該事業完成後、山間部に24ヘクタール(甲子園球場6個分)もの傾斜の少ない梅農園を造成したことにより、石神地区の梅栽培は近代的な農業へと大きく変化し、作業時間も大きく短縮され、効率的な農作業ができるようになりました。うめは収穫できるようになるまで約7年もの年月を要しますが、パイロットファームのうめも成木になり、今では安定的に収穫できるようになってきています。

4.6次産業への取り組み

株式会社濱田の販売店「紀州石神邑」

 石神地区で梅農園を営む農業生産法人の(株)濱田農園では、地元の梅農家とともに、パイロットファームで品質にこだわった梅栽培を行っており、関連会社の(株)濱田では、梅酒や梅干し等の加工品の製造販売も行っています。これらの事業活動を通じて、過疎化が進んだ石神地区の世帯の維持と収入の確保も目指しています。
 具体的には、加工品の店舗販売やインターネット販売することや、うめの卸価格はその年の収穫量によって大きく変動してしまい不安定なものではありますが、仕入価格の安定化に努めることで農家の安定収入に繋げる取り組み等を行っています。最近では、梅酒の海外輸出等も行っており、その販路も拡がりつつあります。
また、うめの選別や商品の箱詰めといった作業では、地域の雇用を維持する効果もあり、今後事業の拡大とともに、この地域に人が集まるきっかけとなることが期待されています。

5.「都市交流」をきっかけとした観光客や定住者の誘致

 この地域の特徴である「うめ」以外でも、人が集まって地域を活性化させるきっかけとして、地元の秋祭りに参加してもらって田舎の良さを改めて知ってもらうイベントや、平成26年3月8日に、スローフードのカフェをオープンして観光客をおもてなしする「天空のオーガニックフェスティバル」といったイベントを行ってきました。これらのイベントを通じて、この地域自体に興味をもってもらい、さらには定住してもらえるよう取り組んでいます。
 そのほかにも、紀州備長炭の原木でもある「ウバメガシ」の原生林が広がる大蛇峰の散策など、新たな観光資源の発掘も検討されているところです。

6.最後に

 今回取材に協力していただいた(株)濱田の濱田朝康専務は、石神地区で生まれ、学生時代と社会人のスタートは県外で過ごしていましたが、「石神地区はうめ以外に主要な産業がなく、まさに“梅しかない”地域。それでも生まれ育ったふるさとをなくしたくない。」という思いでUターンしてこられ、現在はパイロットファームを中心とした梅栽培や加工品の製造販売を積極的に行っておられます。
 濱田専務は「過疎化が進むこの地域では6次産業+αがないと地域の活性化は図れない。」と考え、この「+α」として、前述の都市交流を企画し、農林水産省の補助事業に採択されました。今年度も梅林ツアーやアレルギー対応の梅干し販売等を積極的に展開していく予定です。
 過疎化は全国で深刻な問題となっていますが、生まれ育った先祖代々の地域の特色を最大限に活かすことで、地域を守り・育てていこうと活動する姿に、地域活性化事業の将来を強く感じることができました。

【関係先リンク:(株)濱田 http://www.ume-hamada.co.jp/

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