ページ本文

Iターンの若者の地域づくり ~廃校から交流カフェへ~(和歌山県新宮市)

1.はじめに

新宮市の位置

 新宮市は和歌山県の東南端に位置し、ユネスコ世界遺産に登録されている「熊野古道」や熊野三山の一つ「熊野速玉大社」、市内を流れる「熊野川」などの観光資源が豊富にある自然豊かな都市です。
 一方、中心部以外では、若年人口の減少、過疎化など、日本各地で見られる現象が深刻な問題となっています。しかしながら、新宮市は手をこまねいているわけではありません。ここに、若者の活力を活かした、新たな過疎対策が始まりました。

2.新宮市の取り組み。その名も「ナリワイ研修生」

 新宮市が過疎対策を行うきっかけとなったのが、平成23年9月に紀伊半島を襲った台風12号水害被害からの復旧ボランティア活動に参加していた柴田哲弥さん(現NPO法人「山の学校」代表理事)との出会いでした。柴田さんはこの水害で水没した新宮市熊野川町内にある旧九重小学校を拠点として活動していましたが、この小学校が取壊しされるとの話を聞き、地域振興のために有効活用できないかと新宮市に打診しました。
 その内容は、実際にその地域に移住し定着を図る点や、廃校をカフェとして利用することでコミュニティスペースを作るといったものでしたが、このような地域振興策については総務省の補助事業「地域おこし協力隊」の目的と合致するため、この制度を利用する運びとなりました。さて、新宮市が地域おこし協力隊を「ナリワイ研修生」と銘打ったのは、自分自身の「ナリワイ」を作り、実際に地域に根付いた生活をすることで、事業終了後にも自立した生活ができ、それが定住へとつながることを目的としているためです。

※「ナリワイ」とは、「田舎で自営で生活していくための仕事」を意味しています。
(出典:新宮市「地域おこし協力隊(ナリワイ研修生)」募集要項より)

3.廃校活用への取組み。「ナリワイ研修生」事業始動

 ところで、柴田さんが活動拠点としていた旧九重小学校は明治9年開校の木造校舎です。平成3年の休校以降利用が無く、老朽化と水害により取り壊しすることで住民と合意していました。よって、校舎の利用について地元住民の3割以上が反対を表明していました。わざわざ都会から田舎に移住しようとする若者に対し、地元の方々も戸惑いがありましたが、台風12号水害で、若者によるボランティア活動が復興の助けとなった背景もあり、地元の女性の「若者に熊野川町を任せてみてはどうか。」との声が決定打となり、旧九重小学校は取り壊しから活用へ大きく転換することとなりました。

 H25年6月に、新宮市は3人の「ナリワイ研修生」を採用しました。3人はそれぞれが熊野川地区でくらし、カフェや古民家レストランの開設、熊野杉を使用した耐震ベッドの開発・製作、耕作放棄地を借り受け畑として再利用し、収穫した野菜を古民家レストランで使用する6次産業化の準備など、地域資源の発掘及び振興といった目的を立てて活動しています。その中の一人、茨城県から移住した矢部明日美さんが旧九重小学校で開業したカフェについて紹介します。

4.「ナリワイ研修生」活動記

温かみの感じられる店内。机だけでなく、窓枠や壁も自分たちで改修・作製されている。

 まず旧九重小学校の改修・カフェスペース開設の作業にあたり、問題となるのは資金でした。ナリワイ研修生一人当たりに対して出る補助金額は上限400万円(=報酬等上限200万円+活動費上限200万円)。「物を揃えると、あっという間に無くなってしまう」(矢部さん)金額です。そこで矢部さんは、「必要なものがあれば自分で作る」という考えのもと、新宮市から不用となった机や椅子を現物支給で貰い、自分たちで加工する。地元住民の方も物品の提供、加工に協力する。まさに、地域の皆さんが協力隊という状況でした。

カフェでは、矢部さんによる美麗なラテ・アートが楽しめる。

 地元の皆さんや有志の協力もあり、窓枠や床、壁の改修作業やカフェで使用するテーブル等の作製も完了し、旧九重小学校は見事「bookcafe kuju」へと生まれ変わりました。カフェは2013年11月にオープンし、当面は週末と祝日のみの営業ですが、オープン後3か月で1,153人もの方が来店されました。客層も、車で1時間圏内の方や地元の方が中心で、年齢層も20歳台から80歳台の方と幅広く、地域のコミュニティカフェとしての役割を十二分に発揮しています。

bookcafe kujuに併設されたパンむぎとし。人気があり、午前中で売り切れることも。

 旧九重小学校内は「bookcafe kuju」以外にも様々な活動が行われています。給食室では、手作りの窯を備えパン焼きスペースに改修し、「パンむぎとし」を開設(運営はNPO法人「山の学校」が担当)。オープン後に窯が壊れたため一時休業していましたが、営業再開後はすぐに売り切れてしまう程の人気があります。また、校庭では、高齢化により途絶えてしまった盆踊りの再開・技術継承と、様々な地域振興活動スペースが生まれています。

5.終わりに

 新宮市では、これからも「ナリワイ」活動を続けていくことにより、若者が新宮市で自立し、そして移住に繋がればと考えています。「若者の活力が地域を活性化させるだけでなく、若者がいること自体が防災となり、災害が起こった際、迅速な避難活動や復旧への手助けとなる」(新宮市担当者)からです。

お手製のパン焼き窯を紹介する柴田代表

 また「ナリワイ研修生」事業が成功している理由については、「中には事務補助的になってしまっていることもあるようだが、当市では若者を信じて全てを任せているため、自分たちで自由に活動を起こすことが出来るから張り切っているのではないか。今後も若者の可能性を潰さないため、必要な場面以外では口を挟まず、見守っていきたい」(同担当者)ということです。


 現在ナリワイ研修生事業は第2期がスタートしており、1期生では九重集落周辺での活動でしたが、2期生は他の集落でも活動を行う予定であるとのことです。今後ナリワイ研修生事業が広がっていくことで、自分のナリワイを見つけた研修生によって、九重集落周辺だけでなく、新宮市内の他集落にも活力を与えていくことが期待されます。

PDFファイルをご覧いただくにはAdobe Reader(無償)が必要です。
ダウンロードした後インストールしてください。

Get Adobe Reader