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クラシック音楽のハーモニーが響く京都の街(京都府京都市)

  ~音楽文化創造都市としての新しい伝統~

1.はじめに

「合唱・合奏」授業(京都堀川音楽高校)

 学校内のホールいっぱいにあふれるハーモニー。6月のある日、京都市立京都堀川音楽高校では7月の演奏会に向け、オーケストラの授業が行われていた。音と音の間に「髪の毛1本分の間を開けて」と指示が飛ぶ。様々な音色の異なる楽器の息をあわせ、一つひとつの音を作り上げていく作業には妥協がない。ここでは、「音楽で生きていく」と将来の夢を定めた生徒たちが、日々、切磋琢磨している。
 1、2年生には週に2時間、3年生には週に3時間行われている個人レッスンでは、一分でも無駄にしないという生徒たちの熱意と真剣なまなざしがあふれている。空き時間も無駄にしない。ある日の始業前の時間、自習をしようという生徒たちで約30室あるレッスン室等の鍵はすべて出払っていた。生徒たちはみな一様に「同じ志を持った仲間が友達でライバル。そういう環境で音楽を学ぶことができるのは幸せ」だと実感している。

2.音楽文化創造都市

公開レッスン(京都堀川音楽高校)

 意外に思われる方もあるかもしれないが、京都には、クラシック音楽に出会い、音楽家を志し、音楽家として活躍できる豊かな環境がある。
 京都堀川音楽高校の前身となる堀川高校音楽課程は、全国で最初の公立高校の音楽課程として1948年に創設されているが、戦後、生活もままならない時代に、楽器すら用意できない京都市の財政状況のなか、全国に先んじて京都で新しい音楽教育を始めようとした人々の懇請に応え、地元企業が贈った5台のピアノが始まりだ。同校の卒業生であるヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんも、「ひとはどんなに飢え、苦しい時にも歌を唄います。」と母校に言葉を送っている。音楽の力を信じる気持ちは今も昔も変わらない。
 1950年には、同校の生徒の最初の卒業に合わせ2年の音楽専攻科が設置され、1952年には、この専攻科が京都市立音楽短大(現在の 京都市立芸術大学)となり、さらに、1956年には、日本で唯一の自治体直営のオーケストラとなる京都市交響楽団の誕生へと結実した。
 こうして育ち、プロとして活躍する一流の音楽家は、今度は市民に対し本物の音を届け、または講師として、子供たちの音楽との出会いを支えている。小学生は毎年京都コンサートホールに招待されて、京都市交響楽団の演奏に耳を傾ける機会がある。京都市少年合唱団、京都子どもの音楽教室、京都市ジュニアオーケストラで音楽に本格的に取り組むこともできる。
 京都市ジュニアオーケストラには10歳から22歳まで120名が在籍している。京都市交響楽団の常任指揮者が指揮し、楽団員がトレーナーを務めており、一人でレッスンをしているだけではわからない隣の人との「音の間隔」を体感できるという。オーディションは狭き門とのことだが、パートごとに年長の団員が年少の団員を教える姿も見られ、まとまった、レベルの高いハーモニーを奏でる。
 また、「京都の財産でありたい」とする京都市交響楽団は、0歳児向けから、病院や福祉施設の利用者向けの演奏にも出かけ、音楽ファンの拡大に向けた活動もしている。「ホールで弾いているだけではわからないダイレクトな反応がかえって勉強になるんです。」と、団員はあくまで自然体だ。

京都市交響楽団

京都市ジュニアオーケストラ

3.企業の音楽支援

シルクスキンのドラム   京都コンサートホール           

 企業の支えも大きな力となっている。
 前述の地元企業、日本クロス工業(株)(現・ダイニック(株))が堀川高校音楽課程の創立に際して贈った5台のピアノは京都の戦後の音楽教育の礎となった。また、同社は戦後の皮革などの物資が不足する中では、タンバリンやドラム向けに代用品となるシルクスキン(絹皮。絹地に合成樹脂を塗ったもの。)を製造し、全国に先駆けて京都で始まった小学生への器楽教育も支えた。
 1994年に建設されたクラシック音楽専用の京都コンサートホール(京都市北区)には、建築に際して村田機械(株)をはじめ多くの企業が支援を行い、アンサンブルホールムラタは室内楽向けの小ホールとして同社の資金提供により建設された。
 室内楽専用ホールの青山音楽記念館・バロックザール(京都市西京区)は、京セラ(株)の創業者の一人が、多くの若者が音楽家を目指す京都の「音楽育成の一助になりたい」と、1987年に私財を投じて建設した。このホールでは、運営する青山財団の助成により、毎年約100回の助成演奏会が開催されているが、その中には、25歳以下の若手によるデビューコンサートも含まれており、彼らはここでプロの音楽家としての第一歩を踏み出している。
 ローム ミュージック ファンデーションはローム(株)が中心となって1991年に設立した公益財団法人であり、音楽家の活動や音楽家の卵を助成する財団としては国内有数の財団である。今まで、プロの音楽家を目指す若者370名に奨学金を支給してきたほか、コンサートへの助成やセミナーの開催などを実施してきた。世界のトップクラスの音楽大学の学生を招いた5月の京都・国際音楽学生フェスティバルは今年で21回目を迎えた。学生たちは、世界の同世代の奏でる音を聞いてインパクトをうけ、自らの演奏を披露し、合同での演奏にも取り組んでいる。京都には、学生の演奏を楽しんで応援するよい聴衆も育っているとのことで、開場前に長い列を作った満員の客席もよい演奏を後押しする。同財団は、「音楽家を育成するには継続的に取り組まなければ意味はない。」と、腰を据えた支援を続けたいと話す。

京都・国際音楽学生フェスティバル2013(2013年5月25~29日) 

合同演奏のリハーサル風景           Ⓒ佐々木卓男

4.大人の音楽教室

フルートのレッスン(JEUGIAミュージックサロン京都駅)

 楽器を手にするのは、音楽家や音楽家を志す若者たちだけではない。
 最近大人向けの音楽教室が増えており、賑わいを見せている。少子化が進む中、子供向けの音楽教室だけではなく、大人向けに進出して市場を拡大したいという企業の思惑と、人生に余裕が生まれ、時代を楽しみ始めた熟年層や、仕事帰りの会社員などが、楽器を弾いてみたいという気持ちが合致した。
 音楽の基礎としてピアノから始める子供と違い、大人は、「この楽器が弾きたい」、「この曲が弾きたい」といって楽しむために始める人が多いということで、(株)JEUGIAでは様々な楽器のレッスンを設けている。楽器を買わなくても、また、仕事帰りに手ぶらで来てもらえるよう、楽器もスタジオに備えおいており、ちょっと始めてみたい気持ちを後押しする。ただし、始めてしまえば、レッスンは真剣そのもの。大人は、目指すものがはっきりしていて、上達したいという志向を持っている人が多いという。音楽教室の生徒数は、全体で17,000人であるが、このうち大人の生徒が、現在は4,500名にまでなった。

5.今後の展望と課題

京都市交響楽団

 京都は、古いものを守ると同時に、新しいものを受け入れてきた。そして、「京都には、文化芸術を受け入れ、育む土壌がある」と、関係者が異口同音に口にする。
 音楽家を目指すのは厳しい世界に身を投じることだというが、音楽に打ち込む生徒たちも、初めて楽器を手に取って、メロディーを奏でる楽しみを知った人々も、音楽の魅力に見せられ、それぞれの音楽を目指している。
 プロ、学生、素人問わず、音楽を奏でる人々と、京都市、学校、企業の息の長い支えのハーモニーによる音楽文化のさらなる醸成と発信が、音楽文化創造都市・京都の新しい伝統として根付いていくことが期待されている。
【関係先リンク】
(URL:    http://www.city.kyoto.lg.jp/menu2/category/23-0-0-0-0-0-0-0-0-0.html (京都市))
(URL: http://www.kyoto-symphony.jp/ (京都市交響楽団))
(URL: http://cms.edu.city.kyoto.jp/weblog/index.php?id=300506 (京都堀川音楽高校))
(URL:   http://micro.rohm.com/jp/rmf/index.html (ロームミュージックファンデーション))
(URL:  


   
http://www.jeugia.co.jp/ (JEUGIA))